心拍ゾーンの計算方法:最大心拍数の式とカルボーネン法
心拍ゾーンは、最大心拍数に対する割合で運動強度を5段階に分けたものです。30歳で安静時心拍数が60bpmの人なら、古典的な計算式で最大心拍数は190bpmになり、ゾーン2(脂肪燃焼帯)はおよそ114〜133bpmに収まります。ただし安静時心拍数まで使うカルボーネン法だと、同じゾーン2でも138〜151bpmとかなり上にずれます。この違いがなぜ生まれるのか、どちらを信じればいいのかを見ていきます。
なぜ心拍ゾーンが重要なのか
「きつい」「楽」といった感覚だけでトレーニング強度を管理すると、日によって基準がぶれます。前日の睡眠不足やカフェインの量でも体感強度は変わりますが、心拍数は生理的な負荷をそのまま数値で示してくれるので、感覚に頼らずペースを判断できます。
イージーランのつもりが実はゾーン3に入っていた、というのはよくある話です。会話ができるくらいの余裕を持って走っているつもりでも、心拍数を見るとしっかり負荷がかかっていることは珍しくありません。逆に、インターバル走のつもりでゾーン3止まりで終わっていることもあります。心拍ゾーンを数値で持っておくと、この手のズレにすぐ気づけます。
ゾーンは以下の5段階に分かれています。
- ゾーン1(50〜60%):ウォームアップや積極的休養向けの、ごく軽い強度
- ゾーン2(60〜70%):長時間続けられる有酸素の土台づくり。いわゆる脂肪燃焼帯
- ゾーン3(70〜80%):テンポ走に近い中強度。長く続けるとかえって回復を妨げる
- ゾーン4(80〜90%):閾値付近のきつい練習。インターバルやレースペースに近い
- ゾーン5(90〜100%):短時間しかもたない全力に近い強度
最大心拍数の計算式を比較する
心拍ゾーンはすべて最大心拍数(HRmax)からの割合で決まるので、まず最大心拍数の推定が土台になります。年齢だけから求める式にはいくつか種類があり、30歳の場合で結果を比べると次のようになります。
| 計算式 | 式の内容 | 30歳での最大心拍数 |
|---|---|---|
| Fox(古典的な式) | 220 - 年齢 | 190bpm |
| 田中の式 | 208 - 0.7 × 年齢 | 187bpm |
| Gulati(女性向け研究由来) | 206 - 0.88 × 年齢 | 約180bpm |
Foxの式は1970年代に発表された、いまでもフィットネスウォッチや教科書で最も広く使われている式です。田中の式はより新しいデータをもとに導かれたもので、特に高齢者において実測値との誤差が小さいとされています。Gulatiの式は女性のみを対象とした運動負荷試験の研究から導かれたもので、女性に対してより精度が高いとされています。同じ30歳でも3つの式で10bpm近い差が出ることからわかるように、これらはあくまで推定値であり、実測値そのものではありません。
具体例:30歳・安静時心拍数60bpmの場合
ここからは古典的なFoxの式(最大心拍数190bpm)を使って、実際のゾーンの数値を出してみます。最大値に対する単純な割合で計算すると、次のようになります。
| ゾーン | 割合 | 心拍数の範囲 |
|---|---|---|
| ゾーン1 | 50〜60% | 95〜114bpm |
| ゾーン2 | 60〜70% | 114〜133bpm |
| ゾーン3 | 70〜80% | 133〜152bpm |
| ゾーン4 | 80〜90% | 152〜171bpm |
| ゾーン5 | 90〜100% | 171〜190bpm |
これがいわゆる「単純な割合法」です。計算は簡単ですが、最大心拍数だけを見て安静時心拍数を一切考慮していません。フルマラソンを何本も走っている人と、走り始めたばかりの人が同じ30歳・同じ最大心拍数190bpmだったとしても、この方法では同じゾーンの数値が出てしまいます。
カルボーネン法との比較
カルボーネン法は、最大心拍数からそのまま割合を出すのではなく、まず「予備心拍数」を計算します。予備心拍数は最大心拍数から安静時心拍数を引いた値で、この人の場合は190 - 60 = 130bpmです。各ゾーンはこの予備心拍数に割合をかけたうえで、安静時心拍数を足し戻して求めます。
同じ人物(30歳、安静時心拍数60bpm、最大心拍数190bpm)で単純な割合法とカルボーネン法を並べると、次のようになります。
| ゾーン | 単純な割合法 | カルボーネン法 |
|---|---|---|
| ゾーン1 | 95〜114bpm | 125〜138bpm |
| ゾーン2 | 114〜133bpm | 138〜151bpm |
| ゾーン3 | 133〜152bpm | 151〜164bpm |
| ゾーン4 | 152〜171bpm | 164〜177bpm |
| ゾーン5 | 171〜190bpm | 177〜190bpm |
見ての通り、ゾーン1と2で差がとくに大きくなっています。単純な割合法のゾーン1は95bpmから始まりますが、カルボーネン法では125bpmからです。これは安静時心拍数(60bpm)をベースラインとして組み込んでいるためで、安静時心拍数が低い人(心肺機能が高い人に多い傾向があります)ほど、カルボーネン法のゾーンは単純な割合法よりも上側にずれていきます。逆に安静時心拍数が高い人は、両者の差はもっと小さくなります。
つまり「回復ゾーンのつもりで95bpm前後で走っていた」という人が安静時心拍数を入力すると、実はそのペースはカルボーネン法のゾーン1にすら届いていない、という結果になることがあります。どちらの方法が正しいというより、安静時心拍数を反映できるカルボーネン法のほうが、個人の体力レベルを織り込んだ数値になるということです。
自分の数値で計算する
年齢と安静時心拍数を入れれば、単純な割合法とカルボーネン法の両方でゾーンを確認できます。計算式もFox、田中、Gulatiから選べます。
よくある間違いとつまずきやすい点
220引く年齢を、個人差のない正確な数値だと思い込むこと。 Foxの式はあくまで大人数の集団を対象にした平均値から導かれた回帰式であり、同じ年齢の人でも実測値とは±10〜15bpmほどずれることが珍しくありません。トレーニング計画の出発点としては便利ですが、これを絶対的な上限だと思い込んで無理に追い込むのは危険です。
安静時心拍数を無視して、単純な割合法だけで済ませてしまうこと。 安静時心拍数は朝起きてすぐ、まだベッドの中にいる状態で測るのがもっとも正確です。この数値を計算に加えるだけで、カルボーネン法によるずっと個人に合ったゾーンが手に入るのに、面倒だからと省略してしまう人が多くいます。
年齢が同じだからと、他人のゾーンをそのまま使ってしまうこと。 同じ30歳でも、日常的にランニングをしている人とそうでない人では心肺機能がまったく違います。ゾーンを決めるうえで年齢はあくまで最大心拍数を推定する材料の一つにすぎず、実際のトレーニング強度を左右するのは年齢よりもむしろ現在のフィットネスレベルです。
すべてのフィットネスウォッチが同じ方法でゾーンを計算していると思い込むこと。 メーカーによって単純な割合法を使っているものもあれば、カルボーネン法(予備心拍数)を採用しているものもあります。同じ人が同じランニングをしても、腕につけている端末が違うだけでゾーンの数値がずれて表示されることがあるのはこのためです。どちらの方式を使っているかは、たいてい設定画面のどこかに書かれています。
自分の状況に合わない計算式を選んでしまうこと。 Gulatiの式は女性のみを対象とした研究から導かれているため、男性に当てはめる根拠は薄くなります。田中の式は高齢の被験者を含むデータから作られており、古典的なFoxの式よりも中高年層に合いやすいとされています。年代や性別に応じてどの式を使うか変えるほうが、より現実に近い数値になります。
よくある質問
5つの心拍ゾーンとは何ですか、それぞれ何のために使うのですか? ゾーン1(50〜60%)はウォームアップや積極的休養、ゾーン2(60〜70%)は長時間続けられる有酸素の土台づくり、ゾーン3(70〜80%)はテンポ走に近い中強度の練習、ゾーン4(80〜90%)は閾値付近のきつい練習、ゾーン5(90〜100%)は短時間しかもたない全力に近い強度です。多くの持久系トレーニングはゾーン2に多くの時間を割き、ゾーン4・5は週に数回の質の高い練習に限定するのが一般的です。
最大心拍数の計算式はどれを使うべきですか、なぜ結果が式によって違うのですか? Foxの式(220 - 年齢)がもっとも広く使われていますが、田中の式(208 - 0.7 × 年齢)は高齢者との相性がよく、Gulatiの式(206 - 0.88 × 年齢)は女性を対象とした研究から導かれています。それぞれ異なる年代・性別のデータから回帰式を作っているため、同じ年齢を入れても結果に数bpmから10bpm程度の差が出ます。自分の年代・性別に近いデータで作られた式を選ぶのが合理的です。
カルボーネン法(予備心拍数)とは何ですか、なぜ重要なのですか? 最大心拍数から安静時心拍数を引いた「予備心拍数」に割合をかけ、そこに安静時心拍数を足し戻してゾーンを求める方法です。単純な割合法が最大心拍数しか見ないのに対し、カルボーネン法は安静時心拍数、つまりその人の心肺機能の目安も反映するため、同じ年齢でも体力レベルが違う人により合ったゾーンを出せます。
なぜフィットネスウォッチやアプリによってゾーンの数値が違うのですか? メーカーやアプリによって、単純な割合法とカルボーネン法のどちらを採用しているかが違うためです。同じ人の同じ最大心拍数・同じ安静時心拍数を入力しても、計算方式が違えば、とくにゾーン1・2の下限に数十bpmの差が出ることがあります。数値がずれていても、どちらかの計算が間違っているわけではなく、方式の違いによるものです。
年齢ベースの最大心拍数の推定はどのくらい正確ですか、ラボでの実測テストをする価値はありますか? 年齢だけからの推定は、あくまで集団の平均に基づいた近似値であり、個人差は±10〜15bpmほど生じます。真剣にレースペースやトレーニング強度を管理したい人にとっては、心拍計を着けた状態での漸増負荷テストや、実際のレースでの最大心拍数の記録の方がずっと信頼できます。日常的なトレーニング管理であれば年齢ベースの推定とカルボーネン法の組み合わせで十分実用的です。